日本学術会議新会員に対する任命拒否に抗議し撤回を求める

 

日本学術会議新会員に対する任命拒否に抗議し撤回を求める

2020年10月8日
社会文化学会運営委員会

 10月1日 日本学術会議が新会員として推薦した105名の会員候補のうち6名の任命を菅義偉首相が拒否したことが明らかになった。しかも、菅首相は、10月5日の記者会見でただ「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から判断した」と述べるのみで、具体的な拒否理由を何ら説明することができなかった。このことは、「学問の自由」を侵害する異常な事態である。そればかりか、今回の任命拒否は、「任命権」を楯にこれまでの法律の解釈を捻じ曲げるものであり、法律そのものに反する行為である。

 そもそも日本学術会議は「独立」した機関として、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図り,政府の諮問に答え、政府に勧告することのできる「特別の機関」である。そしてその第2条に、「日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする」とあるように、日本学術会議は、87万人の日本の科学者を代表する組織として、提言や報告等を通じて、われわれの社会に大きな影響力を持っている。事実、最近の新型コロナウィルス感染症をはじめとして、男女参画社会、ジェンダー、性的マイノリティ、デジタル教育、再生医療、防災、地球環境など、社会生活の隅々に至るまで「科学を反映浸透させる」活動を行っている

 そうした活動のあり方が根本から歪められてしまう危機にいま瀕している。研究者が研究者としての使命を全うしようとするならば、時には政府にとって耳が痛いことも言わざるを得ないであろう。また、社会の進歩に貢献しようとするならば、自らの専門性の上に立って発言し、徹底的に議論し合うことを求めるであろう。多様な価値観を持った研究者たちの緊張関係こそが社会の現状を打開し、問題を解決する原動力となると信じるからである。もしそこに政府の人事介入によって、研究者がふるいにかけられるようなことになれば、科学は衰退せざるをえない。だからこそ、日本学術会議は、独立した存在としてあるのである。他方、科学と政治とが緊張関係にあることが社会の健全性を維持するための前提である。もし政治が科学を自らの内に取り込むような事態が生じれば、政治そのものが変質してしまうことになろう。それは、20世紀の人類の悲惨な歴史から、われわれが学び取ったことではなかったのか。

 社会文化学会は、創立以来、学問・思想・文化の自由で創造的な発展のために、「社会文化」の視点から活動を続けてきた。したがって、今回の「学問の自由」を侵害する異常な事態を断じて見過ごすわけにはいかない。菅首相が速やかに6名の任命拒否を撤回することを求める。また、日本学術会議協力学術研究団体である社会文化学会は、この任命拒否の撤回を求める多くの市民や団体とともに連帯して活動していくことをここに表明する。

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